もうひとりの極上御曹司
「お兄ちゃん、私とはいつでも会えるんだから、今日は緑さんと亜沙美さんに会いに行っておいでよ。お昼のニュースの中継で見たけど、相変わらず綺麗だったよ」
「え、俺、見てないぞ。あいつ、どの番組に出るのか教えてくれないんだよ」
「お兄ちゃんに見られるのが恥ずかしいんだって。いいじゃない。女子アナで一番人気の日向亜沙美のプライベートを独り占めできるんだからさ」
「それはそうだけどさ」
がっくりと肩を落とす駿平の姿に、千春と緑は顔を見合わせてくすくす笑う。
駿平の恋人の亜沙美は、民法キー局のアナウンサーだ。
有名国立大学を卒業し、今年三十歳の彼女はクールで知的な見た目とは裏腹な明るい性格が評判をよび、ここ数年は人気女子アナランキングで一位を続けている。
現在、札幌で開催されている環境問題の世界会議の取材を続けていて、お昼の生番組で現地から中継をしていた。
白いロングコートが似合っていたが、それ以上に仕事が楽しくて仕方がないとわかる充実した表情が印象的だった。
「亜沙美さん、来週まで札幌なんでしょう? お兄ちゃんも忙しいし、せっかくだから木島家のプライベートジェットで会いに行かせてもらえば? 亜沙美さんも楽しみにしてるはずだよ」
千春のからかう声に、駿平は「うーん。でも、千春とのハンバーグも久しぶりだから」と言って悩んでいる。
これまで何度か最高裁判所の前で勝訴を喜ぶ駿平の姿をテレビや新聞で見たことがある。
身内だということを差し引いても堂々とした姿に惚れ惚れしたというのに。
眉を寄せ本気で悩む姿は、妹離れができない優しすぎる男にしか見えず、劣悪な雇用環境に苦しみ大企業相手に訴えを起こした労働者たちの弁護団の一員と同一人物には思えない。
「亜沙美なら、ちゃんとわかってくれるはずだし……やっぱり今日は千春とハンバーグ」
チラチラと緑を見ながら小声で呟く駿平に、弁護士としての強さも兄としての逞しさも感じられない。
千春は小さく嘆息した。