もうひとりの極上御曹司

「どうしてこうなる……」

筧先生というのは、今ヨーロッパを席捲している日本人デザイナーの名前だ。

ファッションに疎くそれほど興味もない千春でも知っている有名人の名前を耳にし千春は目を丸くした。

緑の思いがけない行動や言葉に多少慣れ、面白がる余裕も持てるようになってきたが、まだまだだったなと実感する。

このままだと本当にパリまで連れて行かれそうだ。

困り果てた千春が駿平を見れば、千春以上にあたふたし青ざめていて頼りにならない。

これはもう、パスポートの有効期限が切れているから無理だと嘘でも言って押し切るしかないと考えるが、緑のことだ、木島の名前を使っていつの間にか千春のパスポートを用意しそうで気が抜けない。

千春は困り切った顔をしている駿平と目を合わせ、どうしようもないと頷き合った。

すると、緑が千春の手を両手でぎゅっと握りしめ、申し訳なさそうに口を開いた。

「今日は駿平先生の仕事が終わり次第、札幌に行くんだけど。本当はね、千春ちゃんも連れて行こうと思っていたのよ。亜沙美ちゃんと千春ちゃんと一緒に食事なんて両手に華でうれしいもの。考えただけでワクワクしちゃうのよ。だけど、だけどね。うちの融通がきかなくて可愛げがない息子が千春ちゃんは明日も大学があるからダメだって言ってきかないの。本当に意地悪なの、千春ちゃんからも言ってやって」

千春の両手をブンブンと振り回しながら緑は怒り始めた。

その仕草もどこかかわいらしくて憎めない。


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