もうひとりの極上御曹司

千春は、緑を叱りつける長男の愼哉の仁王立ち姿を何度か見たことがある。

生まれながらの見た目の良さと御曹司という立場から、マスコミに取り上げられることが多い。

けれど、千春がこの事務所でバイトを始めてすぐの頃、面倒な会合から抜け出した緑が事務所にやってきてのんびりとお茶を飲んでいた時、血相を変えて飛び込んできた愼哉の顔は、それまでに見たこともない厳しいものだった。

『警護をまいて大切な会合を勝手に抜け出すな。探し回る者の身になって考えろ』

来た早々そう言って緑を叱りつけた愼哉は、それだけでは収まらないのかシュンとした緑に「母さんに必要なのは、自分の行動がどれほどの影響力を持つのかを自覚すること。それと、反省したのならひと晩で忘れない努力。わかった?」とさらにとどめの言葉を投げつけていた。

愼哉の言葉は当然だが、長い付き合いの中でそこまで緑に強い言葉を向ける愼哉を見たのは初めてで、こじれた初恋の忘れ方がわからず困っていた千春の心をさらにときめかせた。

……八歳で芽生えた愼哉への恋心。

当時十五歳だった愼哉への思いは今も尚千春を彼に縛り付けている。

年を重ねるごとに木島グループの後継者としての自覚と責任を身に着けていく愼哉はますます魅力を増している。

千春にとって愼哉は初恋の相手であり、愼哉以外の男性に特別な感情を抱いたことはない。

けれど、そんな思いに終止符を打たなければならない日が近いことも、千春は気づいている。



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