もうひとりの極上御曹司
愼哉には常時複数の縁談が持ち込まれ、木島家の親戚筋からは早く身を固めろとうるさく言われていると聞いている。
これまで愼哉はそれらをすべて断り、興味も示さなかったが、三十歳が近くなり、いよいよ身を固める決意をしたらしいと、少し前に駿平から聞かされた。
その日以来、千春は愼哉をあきらめようともがいているのだが、なかなか簡単にはあきらめられそうにない。
十二年もの間こじらせている初恋は、かなり手ごわいのだ。
けれど、今朝からワイドショーやネットで騒がれているように愼哉の結婚が近いのならば、なんとしてでも愼哉をあきらめなければならない。
「千春ちゃんには北海道の素敵なお土産を買ってくるから楽しみにしていてね」
愼哉を思い落ち込んでいた千春は、緑の軽やかな声にハッと顔を上げた。
落ち込んでいる場合ではない。もともと自分と愼哉では住む世界が違いすぎるのだと、気持ちを切り替えた。
「お土産はいいです。それより、警護の方を困らせないでくださいね」
明るい声を心がけ、千春は緑にそう言った。
「もう、千春ちゃんまで愼哉みたいなことを言わないで。困らせるつもりはないのよ。警護の者たちの動きが遅いから勝手に困ってるだけなのよ」
「え……そ、そうですか」
本気でそう思っているとわかる緑の言葉に、千春は口ごもる。
緑の自由気ままな性格は彼女の長所ではあるが、常時警護がついている立場を考えれば、時にそれが命取りにもなる。
愼哉の怒りは当然と言えば当然だ。
そう言えば、緑は以前、生まれて初めて食べた肉まんのおいしさに感激したと言って、すぐさま本場の大阪に飛んでしまった。