もうひとりの極上御曹司
自家用機を準備する時間も待てないとばかりに民間機で飛んだらしいが、同行したのは吉見と警護の男性二人。
普段なら現地でもある程度のセキュリティー体制を敷くのだが急なことで大変だったらしい。
このことを知った成市だけでなく愼哉と悠生は激怒し、その後しばらくの間、緑は自宅に軟禁状態だった。
もちろん、緑がそれに落ち込むことはなく「知っているかしら? 大阪では肉まんではなく豚まんと言うのよ。私も地元の人の振りをして豚まんをくださいなって注文したの。それに豚まんを作っている様子を動画で撮ったのよ。それはもう手際よくあんを包んでいて見惚れたわ。職人さんってすごいわよね。それに、できたてはとてもおいしくておいしくて。息子に怒られたって平気。今度は千春ちゃんも一緒にレッツ大阪よ」と悪びれた様子はまるでなかった。
緑のお騒がせ歴史はそれだけではないのだが、そのたび愼哉と悠生が雷を落とすのも恒例となっている。
「今日もね、札幌に行くのを楽しみにしている私に『亜沙美さんと駿平先生の二人の時間を邪魔をするなって意地悪なことを言うし、学業とバイトで忙しい千春ちゃんを連れ出すなんて言語道断だ』って怒るの。人前では優しい御曹司の振りをしているのに、私にはいつも鬼のような顔で怒るなんて。あんな二重人格の息子たちなんてもう知らないわ。千春ちゃんからも、いいかげんにしてって言ってやって」
「二重人格って俺のこと?」
低い声が聞こえ、振り向けば、事務所の入口にもたれている長身の男性がいた。