もうひとりの極上御曹司

「あ……し、愼哉さん」

そこに立っていたのは、木島家の長男、愼哉だった。

冷ややかな笑顔を浮かべ、ひと目で不機嫌だとわかる。

「ここは青磁伯父さんの神聖な事務所なんだ。わが物顔で好きなときに顔を出して迷惑をかけるな。それに、亜沙美さんに会わせるために駿平先生を連れて行くならまだしも、千春は明日も大学だ。迷惑だってわからないのか」

愼哉のため息まじりのとがった声に、千春は後ずさり緑は顔をしかめた。

「ほら、そう言っていつも私にお説教ばかり。食事をしたあといつものホテルに泊まって明日の朝には帰ってくるんだもの。千春ちゃんの授業には間に合うからいいでしょう?」
「大学は行けばそれでいいってわけじゃないって何度も言ってる。千春の大学は出席はもちろん課題も多いんだ。ただでさえバイトで忙しいのにこれ以上邪魔をするな」
「なによ。千春ちゃんが自分と同じ大学の後輩だからって自慢ばかり……」
「自慢じゃない。事実だ」
「ま、まあ、そんな言い方しなくても……。ほんとにかわいくないのね」

緑はそう言ってプイと顔を背けた。

これまで何度も愼哉に叱られ、そのたび言い負かされている。

今も愼哉の鋭い視線と言葉に返す言葉もないようだ。

愼哉は、成り行きにあたふたしている千春に視線を向けた。

「何度も迷惑をかけて悪いな」
「いえ、迷惑ではないんですけど」

緑への怒りを抑えつつ、申し訳ないと苦笑する愼哉に千春はドキリとした。

どんな場面でも落ち着いた余裕を見せる姿に、子供の頃から弱いのだ。



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