もうひとりの極上御曹司
「寿司だと? まさかまた一日貸切って千春とふたりきりで楽しもうって計画か? 無理だ。父さんと二人で勝手に行ってくれ。千春は今日は大学だ。それと、今日から千春にも警護をつける。もともとそのつもりでいたけど、千春と駿平先生があの事故の遺族だとマスコミが騒ぎ始めてるからな。父さんと母さんにも取材がくるだろうけど、うまくかわしてくれ。とぼけるのは二人とも得意だろ」
「遺族?」
その言葉に千春は敏感に反応し、背後の愼哉を見上げた。
「大丈夫だ。マスコミはしばらくの間千春を悲劇のお姫様のように扱うだろうけど、守ってやるから心配するな」
「ん……」
千春は心細い声で答え、どうにか笑顔を浮かべた。
両親が亡くなった当時に味わったマスコミからの攻撃を思い出し、体中が強張り、握りしめた手がぶるぶる震え出す。
「やだ、とっくに大人になってるのに怖がるなんて……おかしいな」
ぎこちない笑い声をあげたた千春を、背後にいる愼哉がさらに強い力で抱きしめた。
そのとき、緑は成市と顔を見合わせると力強く頷いた。
「あのときのようにマスコミの好きにはさせないわ。木島の力を最大限に使って千春ちゃんを守るから安心していいのよ。それに、なにも悪いことはしてないんだから、堂々としていましょう」
緑は千春のそばに駆け寄りしゃがみ込むと、千春の両手を握った。
「不本意だけど木島家に嫁げば千春ちゃんはこの先ずっとマスコミに追われるわ。ご両親の事故のことだって一生ついてまわるし、一生悩み続けるの」
それまでのはしゃいだ様子から一転、諭すような声音で緑は言葉を続ける。
「苦しんで悩んで、泣くこともあるわ。だけど、それ以上の幸せを愼哉が、それに私も成市さんも、ううん。木島家総出で約束する。千春ちゃんは苦しみを抱えたまま安心して嫁いでくればいいわ。あとは私に任せてちょうだい」
「緑さん……」
ポロリとこぼれた千春の涙を、緑が優しく手で拭う。