もうひとりの極上御曹司
「ええ、ええ。待ちましょうね。いつも千春ちゃんは私と一緒よ。だって私の娘だもの。それも、こんなにかわいい自慢の娘」
涙声で呟く緑の表情があっという間に華やいだ。
その後ろに立った成市も、千春に「木島家にようこそ。みんなで一緒に幸せになろうな」と声をかけた。
ただひとり、愼哉は顔をしかめている。
我が物顔で千春を独占しようとする緑に我慢ならないのだ。
「もういいだろう? 千春はこれから大学だ」
愼哉は緑を千春から引き離すと、千春の体を抱き上げた。
「だ、大丈夫、歩けます」
急に抱き上げられた千春は、愼哉の首に抱きついた。
「愼哉さん、おろしてください」
緑と成市の手前、恥ずかしくて仕方がない。
けれど、愼哉に千春をおろす気配はなく、ずんずんと歩き出す。
「愼哉さん、あの、今はもう歩けます。大丈夫ですから」
千春は緑と成市、そして食事の給仕をしている使用人たちの目を気にしてもぞもぞと体を動かすが、愼哉におろす気配はない。
「なに言ってるんだよ。さっきまでまったく歩けなかったんだ、おとなしくしてろ」
ちらりと千春を見下ろし、あっさりとそう答えた。
「え、どうしたの? もしかして千春ちゃんケガでもしているの? だったら今すぐドクターを呼ぶわ。千春ちゃん、大丈夫?」
愼哉と千春の会話を耳にした緑が慌てて二人に駆け寄ると、愼哉は煩わしそうな表情を浮かべ、立ち止まった。
「問題ない。ドクターを呼ぶ必要もない」
「でも、歩けないんでしょう? ねえ千春ちゃん、どこか痛いの?」
緑は愼哉の言葉を聞き流し、心配そうに千春の足に触れようと手を伸ばした。
けれど、緑の指が千春の足に触れる直前、愼哉がすっと体の向きを変えた。
「意地悪しないでちょうだい。千春ちゃんが心配なの」
唇を尖らせ怒る緑を、愼哉は目を細め睨んだ。