桜の下で会いましょう
依楼葉は恐ろしくなって、衣を脱ぎながら、御簾納奥に動いた。

それを知った橘厚弘は、御簾納を上げて中に入ってきた。


「尚侍!」

たちまち依楼葉の腕は、厚弘に掴まってしまった。

「お、お許し下さい。」

「許さぬ。我が心の内を明かしたからには、知らぬ振りなどさせようか。」

依楼葉は、橘厚弘と言う者が、冬の君や帝である桜の君以上に、強引で自信家である事を知った。

このままでは、強引に枕を交わさせてしまうかもしれない。

依楼葉の震えは、止まらなかった。


「口説かれて、このように震えるとは。なんと可愛らしい。」

抱き寄せよとした橘厚弘の隙を縫って、依楼葉は厚弘から離れた。

「これ以上近づいたら、人を呼びます。」

「呼べばいい。ただし、我らの仲が皆に広がるだけだ。」

「それは困ります。」


依楼葉は、帝を思い浮かべた。

この事が帝に知られたら、どう思われるだろう。
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