運命だけを信じてる
蒸し暑く、もうすっかり夏だ。
冷たい珈琲を買って、ベンチに座る。
「聞きましたよ。星崎課長が飛鳥さんと付き合うことになったきっかけは…私ですよね?」
「………違うよ。前山のためでは…」
「正直に話してください。私だけ蚊帳の外は嫌です」
間のある返事には信憑性のカケラもなくて、課長は目を合わせようとしない。
「…確かにきっかけは前山を管理課に異動させることだったけど、それだけじゃない。彼女と結婚すれば、少なくとも会社での俺のポジションは確立されて、おまえを含めた部下たちが働きやすい職場を作れるとも思った。東家の婿養子ともなれば、色々優遇されるだろう。…打算的な男で失望した?」
揺れる瞳を向けられて、即座に首を振る。
やっと目が合ったのに、そんな寂しそうに笑わないで。
「私のため、管理課のため、って。星崎課長は誰かのために頑張ってくれていたのですね。ありがとうございます」
見えないところで私のために戦ってくれていた。その戦いは、東課長のように卑怯でも挑戦的でもなく、どうしたら一番穏やかな道になるかを考えた結果なのだと思う。
あなたらしい。
「買いかぶりすぎだよ。俺はそんなに立派な人間ではないよ」
「でも私は課長のおかげで、今も会社に居続けられるのです。あなたが居なかったら、もうとっくの昔に辞めていました」
もっと早く、星崎課長と飛鳥さんのこと聞けていたら。踏み込めていたら、私は勇気を出して告白できていたかな。
星崎課長が飛鳥さんを愛していないと知っていたら、私は過去の恋愛に縛られず、目の前の恋を全力で追えていたのかな。掴もうと手を伸ばせたのかな。
「本当に星崎課長には感謝しかありません」