運命だけを信じてる

定時に上がり、エントランスを通る。

小牧さんは社内の新人研修に参加していて、19時までは帰れないだろう。


外に出ると、強い風が吹く。
裏地のしっかりとした白いコートを着てきたけれど、寒い。少しでも温まろうと最近の私はパンツスタイルだが、女性社員の多くはスカートだった。

なんだかな。
こういうところで女子力って差が出るのかな。




正面玄関近くに置かれた、ベンチが目に入る。

夏場はよく待ち合わせ場所に使われるが、さすがに冬は誰もいない。


懐かしいな。

小牧さんはここで私を待っていてくれた。


入社初日から2人で飲みに行くことになった経緯も、彼がここで待っていてくれたからだ。



ベンチの前で、足を止める。


"土曜日、どこか出掛けませんか。2人で"
"デートのお誘いです"


かつて小牧さんにデートに誘われた場所。

もし今同じ言葉を投げ掛けられたら、私は飛び上がって喜ぶはずだ。


もう、遅いのかな…。



そっとベンチに腰掛ける。
冷たい木の感触が身体に伝わってきた。

手だってかじかんできた。


それでも何故か、この場所を離れたくなかった。


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