運命だけを信じてる
母は突然料理に関心を持ち始めた娘に詮索はせず、いわゆるおふくろの味を教えてくれた。
「前山さんの手料理はどこで食べられますか?」
「え?母が居ても良いのなら、うちに来てもらえたらいつでも…お弁当を作っても良いですし…あ、でも。小牧さんがお弁当を持ってきたら女性社員が黙ってませんよね」
私のお弁当を食い入るように見る杉山さんの顔が浮かんでしまう。それは恥ずかしい…。
小牧さんが東家の息子であることは、まだ公になっていない。星崎課長に口止めされたわけではないけれど、管理課のみんなは黙ってくれているようだ。
それは飛鳥さんの婚約解消も同じで、まだ彼女と星崎課長が付き合っていると思っている人の方が多いだろう。
「お母さんに、僕のことはなんと紹介するつもりです?」
小牧さんの問いに、曖昧に笑う。
良かった、タイミングよく降りる駅で停車した。
「小牧さん、お疲れ様でした。おやすみなさい」
軽く頭を下げて電車を降りる。
けれど、
「逃げないで、答えて」
私の後について電車を降りた小牧さんの後ろでドアが閉まった。
「え?小牧さん、電車…」
「今夜は送らせてください」
落ち着いた声だった。