運命だけを信じてる

「本当は、課長と一緒にうちに訪ねて来てくれた夜、興奮して眠れなかったです。まさか前山さんに想いが届いたなんて…」


小牧さんは歩調を緩める。


「嬉しい半面、色々と考えました。星崎課長の方があなたを想ってきた期間は長いわけで、申し訳なさもありましたし、妹と課長を引き離した僕が、自分だけ幸せになるなんてーーって。でも一番考えたことは、前山さん、"社長夫人"になってくれるのかなってことです」


「しゃ、社長夫人?」


聞きなれない単語を復唱しつつ、足を止める。


「いずれ、僕は社長になります。そう父が望んでますし、東課長には任せられません」


考えたことがなかった。


だって小牧さんは新入社員で、金髪で。
髪色とは裏腹に育ちの良さが滲み出ていたけれど、社長候補だとは思いもしなかった。

まさかこんな私が社長夫人に?



「うちは、父の愛人が何人も出入りするような家で、血の繋がらない兄妹が居て、複雑な家庭です」


「……」

どのような顔をしたらいい?
どのような言葉を返したら小牧さんを傷付けず、それでいて他人事のようにならない?


「僕との未来、よく考えてみてください」


私の反応は想定内だったようで、小牧さんはいつも通り優しく笑いかけてくれた。


「はい」


真剣に返事をすることしかできなかった。


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