運命だけを信じてる

お店を出て、小牧さんが真っ直ぐ駅に向かって歩いていることが分かった。


12時半を回ったところだ。

普通のデートならばこの後、ショッピングや映画を楽しむのかな。


「…あの夜、怒ってくれて嬉しかったです」


「え?」


前を歩く小牧さんは振り返らずに続けた。


「両親は俺に甘くて、仕事もまぁそれなりにできて、怒られる機会って今までなかったので。もう明日から来なくていいと強く叱ってくれたあなたが、とてもカッコ良く見えました」


「そんな…新入社員に言う台詞ではなかったと反省しています」


「反省すべきことなんてひとつもないですよ。職場の女性に手を出そうとする新入社員なんて、叱られて当然ですから」


小牧さんが笑った気配がした。


「今日もありがとうございました。貴重なおやすみに、僕のわがままに付き合ってくれて」


ちらりと小牧さんは私を見てくれた。


「こちらこそ、ご馳走様でした」


そう声を掛けたけれど、小牧さんはもう前に向き直っていた。

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