Toxic(※閲覧注意)
目的の和食レストランに行かないのなら、わざわざ私を仕事時間外に呼び出し、食事をご馳走するメリットは?

釈然としないまま、柴宮にエスコートされて窓際の席に座る。

店内は白を基調とした高級感に溢れた内装。

フロアの中央には、白いグランドピアノが置かれていて、会話を邪魔しない音量のトロイメライが、自動演奏で奏でられている。

窓際とは反対側の一角にバーカウンターがあり、多くの客で賑わっていた。

大きな窓からは東京湾の夜景が一望できて、なかなかロマンチックだ。

「夏目さん、シャンパンは飲めます?」

柴宮大和が、口許に柔らかい笑みを浮かべて訊いた。

「ええ。いただきます」

高級ホテルの最上階、夜景を見ながらシャンパンで乾杯なんて、まるでデートだ。

……私は一体、何をしているのだろう。

でも、向かいの柴宮の端正な顔を見ていたら、だんだんと「このくらいいいじゃない」という気がしてきた。

季節は春が始まった所だというのに、先日38才でバツイチデビューしてしまった、すっかり晩春の私。

1日くらい、仕事放置して若いイケメンと素敵ディナーしたって、バチは当たんないよね?

けれど、ほどなくして出てきたグラスシャンパンを一口飲んだ所で、

「さっそく仕事の話で恐縮ですが」

柴宮は真面目な顔をしてそう切り出した。

一気に現実に引き戻されて、少しだけガッカリした。
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