Toxic(※閲覧注意)
「では、ディナーを楽しみましょうか」

アンティパストが出てきたタイミングで、柴宮大和はそう言って微笑んだ。

彼は本当に、こんな改めてお願いするまでもない話をするために、わざわざ私を呼びつけたのだろうか?

仕事の話なんて、実際3、4分しかしていない。

こんな説明、昼間の挨拶時で充分事足りたはずだ。

もしくは、電話でもいいくらいだ。

柴宮の本当の目的は、何だろう。

考えれば考えるほど、私がここに招かれた意味はわからなくなっていく。

しかし。

「…ええ。そうですね」

私は一旦考えるのをやめて、私はフォークとナイフを手にした。

射手座のO型、究極の大雑把である私は、細かいことは気にせずに楽しめるものは楽しもう、という主義なのだ。

もっと言えば、自分の欲求に非常に忠実。

アンティパストは魚介のタルタルで、ボタン海老とアボカドの上にキャビアが惜しげもなく散らされていた。

これを目の前に、考えてもわからないことを考え続けるほどの胆力は、私は持ち合わせていない。

「いただきます…………うわ、美味しい!」

あまりの美味しさに、私が素直な感想を漏らせば、柴宮は「それはよかったです」と微笑んで、シャンパンを一口飲んだ。

アンティパストのあとは、ビシソワーズスープ、続いてイベリコ豚のトマトラグーが運ばれてくる。

それらを楽しみながら、私は柴宮と軽いビジネストークをした。

主に最近のインバウンド市場についてだが、大して中身もない世間話程度のものだ。

ラグーを食べ終える頃、ちょうど話に区切りがついた所で、柴宮大和が、

「ところで、提案なんですが」

と言った。

「提案? なんですか?」

「夏目さん。ここからは、完全に仕事抜きでお話しませんか?」
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