Toxic(※閲覧注意)
「仕事抜き? プライベートなお話をしましょう、ってことですか?」

私が聞き返すと、柴宮は「ええ」と笑顔で頷いた。

私の手元のシャンパンはもう2杯目が空く所、夜景や店内のムードも手伝って、軽くいい気分になってきた頃だった。

それに、その場を取り繕う程度の仕事の話にも、そろそろ飽き始めていた。

仕事は好きだが、勤務外まで仕事のことを真面目に考えるほど、私は仕事熱心な人間ではない。

「構いませんよ。ずっとビジネスの話なんてしてたら、せっかくのお料理も台無しですものね」

私がそう答えれば、柴宮は「ありがとうございます」と言ったあと、残り少ないシャンパンをくいっと飲み干した。

「……あ、その前に」

「……?」

「夏目さん、次、何飲みます? シャンパンもいいけど、メインが牛肉だから、赤ワインもオススメかな」

なんとなく、少しくだけた話し方になった柴宮に合わせて、

「じゃあ、赤いただこうかな」

と私が答えると、彼は

「銘柄は何でもいい?」

とごく自然に返してきた。

このタイミングでさりげなく敬語を使わなかった柴宮大和は、やはりヤリ手の営業マンだ、と感心する。

相手との距離の縮め方を知っているのだ。

「そうね……私、ワインはそんなに詳しくない し、柴宮さんにおまかせしようかな」

「了解。夏目さん、辛口、甘口はどっちが好み?」

「私はどちらでも。先に辛口って言うくらいだから、柴宮さんは辛口が好きなんでしょ?」

私が言えば、柴宮は「さすが夏目さん」と笑って、ワインを注文した。

プライベートな話……なかなか優秀そうな目の前の彼は、一体どう楽しませてくれるのかしら。

久しぶりにワクワクする。
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