Toxic(※閲覧注意)
やけに味の濃い麻婆豆腐をやっと食べ終えて、私は一服がてら近くのビルの庭に足を運んだ。

会社に戻れば室内に喫煙ルームがあるのだが、昼休憩くらいは職場を離れてのんびりしていたい。

設置された灰皿の脇にあるベンチに座って、うーんと伸びをした。

ここは日当たりがよくて、とても気持ちいいのだ。

あれ、そういえば最近、やたら体を伸ばすようになったな。

すぐ肩や背中が凝るのは、やっぱり年かなあ。

バッグの中からシガレットケースを取り出し、手早く火をつける。

ふぅーっと大きく煙を吐き出すと、体の力が一気に抜けた気がした。

再びケータイに目をやると、マサトくんから『了解。仕事頑張って!また誘うね』というメッセージが届いていた。

えー、また誘う気なの? もうよくない?察して?

思わず、ため息とタバコの煙が口から漏れる。

マサトくんは嫌いじゃない、嫌いじゃないけど。

……ブーン、ブーン…

不意に、手の中のケータイが震えた。

『柴宮大和さんからメッセージが届きました』

今度こそ、柴宮からだ。

メッセージを開いてみると、

『19時、JRの南口改札前で』

とてつもなく一方的な内容が表示された。

え、今夜の7時のこと?!

いや、今日は金曜日だし、今日の内にいろいろ終わらせないと、また明日かあさって休日出勤する羽目になってしまう。

7時なんて、全く終わる気がしない。

でも……。

『死ぬ気で空けてよ。そしたら、ご褒美あげるから』

日曜日に電話で言われた台詞が、脳裏をよぎる。

だから、"ご褒美"ってなんなのよ。

「了解」

追われるのは好きじゃないのに。

もしかしたら。

この二文字を送ってしまう私の喉元には、もうとっくに、獅子の牙が食い込んでいるのかもしれない。
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