Toxic(※閲覧注意)
柴宮大和がやっと唇を離してくれた所で、

「…………柴宮さん、ここ、駅だから」

私は、心臓が激しく脈打っているのを悟られないよう、努めて冷静に言った。

てゆーか、何?!今の!

出会い頭にキスなんて、ハリウッド映画くらいでしか観たことないし!

……しかも、キス、めちゃくちゃうまいし!

ちょっとクラクラしたし!

「うん、知ってる」

彼は、にっこりと微笑んで言った。

そうですよね、あなたはそう返すと思ってました。

「……あのね、ここ、会社の人間とかいっぱい通るの。柴宮さんもでしょ?」

「ふーん、駅じゃなきゃいいんだ?」

柴宮はからかうように笑う。

「だから、そういう問題じゃなくて」

「じゃあ、続きは違う所でね」

柴宮は甘い笑顔で言うと、「行こうか」と歩き出した。

あーもう、お話にならない。

私はため息をつきながら、彼について行った。

まだ心臓がバクバクいってるけど、気のせいってことにしよう。

38にもなって、キスで動揺するなんて恥ずかし過ぎる。

「……ところで、どこに向かってるの?」

「花村(はなむら)」

「花村?!」

思わずすっとんきょうな声を上げてしまった。

花村というのは、かなりお高いので有名な寿司屋の名前だった。

勿論、私はその敷居を跨いだことすらない。

金持ちツアーの為の予約なら、何度もしてるけどね!
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