Toxic(※閲覧注意)
「なにそれ、どういう意味?!」
ハイソなお客ばかりの静かな店内に、私の声が一際大きく響いた。
……ああ、ハイソって死語だった、セレブに訂正。
気を抜くとすぐに昭和が駄々漏れてしまう。
「言葉通りの意味だけど」
隣の柴宮大和はそう言うと、小鉢の中のほたるいかを箸でつまんで、パクッと口に放り込んだ。
何この小鉢、何焼きかわかんないけど、器のお値段だけで回転寿司何度も通えそう。
『夏目さんて、今までろくな恋愛してなさそうだよね』
柴宮が、なんの脈絡もなく突然そんなことを言い出すから(しかも図星だから)憤慨している所だ。
こっちはちょうど大好物の海胆が目の前に置かれて、上機嫌だったのに。
それにしても、過去の恋について何一つ語っていないのに、どうしてそう思われたのか。
「ほら、そんな興奮しないで。はい、ほたるいか。今が旬だから美味しいよ?」
柴宮がほたるいかを差し出して、あーんとやる。
私は眉をしかめたまま、一旦それにかぶりついた。
春の美味を充分堪能してから、
「だって……なんでそう思うの?」
多少周りを気にして、少しだけ声を潜めて言った。
「夏目さん、自分が追いかけるタイプって言ってたでしょ?」
「うん、言ったけど」
「追いかけられても落ちない。それってつまり、見た目重視ってこと。わかる?」
「そんなことは…………いや……あるのかも」
さすがに否定できなかった。
見た目で選ぶから、必然的に自分より若くなる。
だって、オジサンより若くて綺麗な男の子の方が好きなんだもの。