Toxic(※閲覧注意)
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私の手を引いて駅構内を進んでいた大和が、不意に立ち止まり、こちらを振り返った。

「響子んち、何番線?」

目が合うだけで、心臓が引きちぎれそうなくらい痛い。

「…………5」

絞り出すように答えれば、大和は私の手を握ったまま、5番線のエスカレーターへと歩き出す。

そもそも彼は、JRではなく地下鉄だと言っていたのに……ホームで見送るつもりなのか、それともこのまま、私の家まで来るつもりなのか。

彼の真意がわからないまま、けれど、私は黙って彼の背中についていく。

私はこれから、どうなってしまうんだろう。

仕事以外で二度と会わない、関わらないと誓ったはずなのに、私はこの手を振り払うことすらできない。


──ついさっき。

突然目の前に現れた大和を見て、マサトくんは「す、すいません!」と、慌てて私の手を離した。

どうやら彼は、大和のことを元夫の片桐と勘違いしたらしい。

マサトくんは、片桐の顔も、私が離婚したことも知らないのだ。

大和はそんなマサトくんに柔らかい笑みを向けると、

「響子、帰ろ」

と私の手を取って、改札へと向かって歩き出したのだった。

大和、なんで?

なんでここにいるの?

なんで……ずっと連絡して来なかったの?

なのになんで、「俺の」なんて言うの?

奥さんいるくせに、なんで……。

聞きたいことはたくさんあるのに、何も言葉にならない。
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