Toxic(※閲覧注意)
ホームに電車が来ても、大和はその手を離そうとはせず、当たり前のように電車に乗り込んだ。

彼は少し怒ったような顔で何も言葉を発しないから、私も黙ったまま、ただ電車に揺られた。

金曜日の夜で、いつも以上に混み合った車内。

車両の揺れで私は何度もバランスを崩して、その度に大和に体を支えられた。

触れられた箇所が熱くて、切なくて、情けなくて泣きたくなった。

「…次、降りるから」

私がそう告げると、大和はやはり少し不機嫌そうな顔で「うん」と小さく頷いた。


「響子」

他にどうしていいかわからないまま、辿り着いてしまった自宅のマンションの前で私が足を止めると、ずっと黙っていた大和が口を開いた。

「……なに?」

「なんでずっと連絡して来ないの?」

とても低い声で、不機嫌そうに言った彼の言葉に、

「…………は?」

一瞬呆気に取られて、間の抜けた声が口から漏れた。

そんな私のことはお構い無しで、大和は続ける。

「そんで、何わけわかんない他の男に口説かれてんの?」

「……何、言ってんの? わけわかんないのはそっちでしょ?」

とても苛々した様子の彼に、私は混乱しながら、大和の手を振りほどく。

「大和には関係ないよね? 私、さよならって言ったじゃん」

「 知らない。俺は『うん、わかった』なんて言ってないし」

「……はあ?何それ?!」

コイツ何言ってんの、人の気も知らないで!

あまりに身勝手な言葉に、私は思わず声を荒げた。
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