Toxic（※閲覧注意）

「響子は俺のだって言ったよね。何他の男に逃げようとしてんの？」

ずるい、ずる過ぎる。

私がどんな想いで、あの時別れを告げたと思っているのだろう。

「奥さんいるくせに、勝手なこと言わないでよ！」

私が半ば叫ぶようにそう言うと、突然、大和の顔から表情というものが消えた。

「……奥さん？」

彼は無表情のまま、少し首を傾げた。

「えっ……だって大和、結婚してる……よね？」

そのおかしな反応に、私は戸惑いながら尋ねた。

「あー、『奥さん』ね」

大和は少しだけ笑って言った。

「あんなクソ女、死ねばいいのに」

冷たく響いた一言に、一瞬ゾクリとした。

死ねばいいのに？

浮気相手の前で言う、体のいい悪口にしては度を超えている。

奥さんのことを全く愛していない、だから不倫したい……そんな単純なものとは違う、もっと激しい憎悪を感じた。

一体何をされたら、自分の妻に対して「死ねばいい」なんて感情を抱くのだろう。

なんだか胸がやけにざわついた。

……けれど。

どのみち私には、関係のないことだ。

大和と奥さんの仲がどうであれ、彼が結婚していることには変わりがない。

奥さんがいる以上、私は彼と一緒にいられないのだ。

…………。

……奥さんがいるから？

私、この人のこと好きでたまらないのに。

一緒にいたいのに。

何？ 『奥さん』て。

死ねばいいのにって思われるくせに。

鬱陶しい。

……あーあ、いっそのこと、本当に消えてくれないかな。

不意に、ドロドロと汚い身勝手な感情が顔を出して、私は慌ててブンブンと頭を振る。

たった一瞬でもすごく恐ろしいことを考えてしまった自分が、とても怖くなった。