Toxic(※閲覧注意)
「つーか響子」

大和が再び口を開いた。

「本気で俺と離れる気なの?」

「……当たり前でしょ、だって不倫なん」

「離れられんの? 俺のこと好きなのに」

私の言葉を遮って、大和は少し笑って言った。

ほんと、頭に来る。

好きなんて言ったことは一度もないのに、この人は、私が自分のことを好きだと確信しているのだ。

そんな不敵な所が、たまらなく愛しくて、心底憎たらしい。

「…………好きじゃない」

絞り出すように小さく答えた。

「ふーん、そうなんだ?」

大和は鼻で笑って、私の首元に視線をやる。

「好きじゃないなら、なんで俺があげたそのネックレス、いつまでもしてんの?」

「……」

胸が苦しくて、言葉が出てこない。

「なんで今、俺に帰れって言わないの?」

「…………」

「一緒にいたいからじゃないの?」

そう言いながら、大和は私の頬に触れて、親指でそっと撫でた。

「好きじゃないなら、なんで泣くの?」

「…………」

言われて初めて、自分の目から涙がこぼれていることに気づいた。

「ほんとは俺のこと、すげー好きなくせに」

……ムカつく。

どうして私は、こんなヤツのことなんか。

「もう勝手に離れちゃダメだからね」

大和は優しく微笑んで、私をぎゅっと抱きしめた。

こんなのダメなのに。

彼には奥さんがいるのに。

けれど、彼に抱きしめられてとても幸せだと感じてしまう私に、もう跳ね退ける気力なんて残っていない。

「……アンタなんて、大嫌い……」

今にも口から溢れてしまいそうな「好き」を飲み込んで、私は大和の胸の中で呟いた。
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