毎日、失恋。
「だから、ずっと気持ち隠して側にいたの。だけど尊、他の子と付き合ってた時は直ぐ手を出してた癖に私には何もしてこないんだもん。だから最後にあんなお願いをしたの。」

「ああ…」

最後にキスしてと…

「だけど尊ったらそれでもちゃんとしたキスしてくれないんだもん。さすがに落ち込んだわ。」

「そうだったの?僕は梨杏とは同士でいたかったんだ。簡単な恋愛関係にはしたくなかった…ってごめん。僕の勝手だよね。ほんと、ごめん。」

「謝んないで、余計に惨め。」

「ああ…だけど、あの時、キスのことなんでって聞いたけど教えてくれなかった。何れ雑誌のインタビューで答えるとかって言ってたけど…」

確かに梨杏はそう言って教えてくれなかった。

「理由ね、それは簡単なこと。今はモデルのお仕事頑張ってるけどいつかは女優としてやっていくつもり。それでね、何れは主演女優とかになって雑誌の取材なんかで初めてのキスシーンは大丈夫でしたか?って聞かれたら、」

「ん?」

「ファーストキスは好きな人に捧げたので余裕ですって言うつもり。」

言い終わると同時にほんの一瞬、梨杏の唇が僕のそれに触れた。

「えっ…」

「まっ、これでほんとに全部チャラにしてあげるわ。もうそろそろかな。」

梨杏がそう言いながら入り口に目を向けるとカチャリとドアが開く音がした。

「お待たせ。明日の午後一番の便になるけど…その様子ならいいのね?」

杉中さんが僕と梨杏の微妙な距離と空気を察したのか呆れた顔で言った。

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