耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

「じゃあ、行ってきます。」

くるりと背を向けて、玄関扉に足を一歩踏み出した時、

「ミネ、忘れ物です。」

「ん?」

(何か忘れたっけ?)

鍵も財布も肩に掛けたトートバックの中にある。仕事で使うエプロンも。
忘れずに帽子も被ったし、日傘も持った。そもそもアルバイト先はここから歩いて五分ほどなので、忘れても困るものなどほとんどない。鍵だって一応持っているが、今日は怜が家にいるから締め出されることもないだろう。

「ハンカチもティッシュもちゃんと持ったよ」などと、小学生のようなことを言いながら、怜の方に振り向く。上半身を後ろに半分捻ったところで、美寧の左肩に怜の手が置かれた。
反射的に顔を上げると、すぐ目の前に怜の顔があった。

ふわりと、唇に温もりが降ってくる。ちゅっと、音を立ててすぐに離れた。

「いってらっしゃい、ミネ。」

「……い…ってきます。」

真っ赤になった顔を見られたくなくて、美寧はそそくさと玄関扉から外へ出た。


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