耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

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怜に見送られた美寧は、玄関を出た時のスピードのままに仕事場へと足を進める。熱く火照った顔を誰にも見られたくなくて、つばの広い帽子で顔を隠すように俯き加減に歩いていた。

通勤経路のである公園の中ほどまで来ると、小走りの一歩手前だった速度が急速に緩む。
それまでとは打って変わって小さな歩幅でのろのろと歩いていると、遊歩道の横にある池の水面に蓮の葉が浮かんでいるのが目に入ってきた。
陽が真上に近くなっている今、その花弁は閉じてしまっているが水面に浮かぶ葉は涼しげで、朝早い時間には赤く美しい花が池のいたるところで見ることが出来る。
頭の上からは、割れんばかりの蝉の大合唱。

寒さよりは暑さに強い美寧だが、この時節の、湿気を帯びた空気と焼き尽くさんばかりに照りつけてくる陽射しには勝てそうにない。

美寧は自分の手に畳まれたままの日傘があることに、はたと気が付いた。
この日傘も今被っている帽子も、少し前に怜が買ってくれたものだ。

『熱中症が怖い季節ですので、出かけるときは忘れずに使ってくださいね。』

ある日、帰宅した怜にそう言って渡された日傘は雨天兼用の折り畳み式。真っ黒な生地の裾にぐるり一周、猫のシルエットと足型が白く描かれている。それは美寧にとって外出に欠かせないアイテムであり、大切なものの一つだ。
大事に使いたいと思いながら、手に持っていたそれを広げた。

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