耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー


日傘を持つ手とは反対側の手でそっと、自分の唇に触れてみる。そこには怜の感触がまだ残っていた。

(ちっとも上達してる気がしないかも………)

恋人としての“練習”を申し出てから早一週間。練習の成果はまだ見られない。
“練習”の内容は、というと―――

日常の挨拶に必ずと言っていいほど付いてくるキス。
『おはよう』や『おやすみ』はもちろんのこと、『いってらっしゃい』『おかえりなさい』『ありがとう』、そんな言葉と共に降ってくる唇に、美寧は未だまったく慣れることが出来ずにいる。
毎回キスする度に必ずと言っていいほど固まってしまい、上手く振る舞えない。
そんな自分のことを怜がどう思っているか、彼の表情からはまったく読み取れなかった。

(れいちゃん、そろそろ呆れてるかも……)

“練習”が実を結ぶ日など来ない気がして、美寧ははぁっとため息をついた。

遊歩道で立ち止まっていた美寧は、このままではアルバイトに遅れてしまうと思い、止めていた足を前に踏み出した。


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