耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー


怜を見送った後、しばらく美寧は縁側に座ってくつろいでいた。大きなビーズクッションに背中を預けている。初めて使ってからずっと、このクッションはリラックスの相棒になっている。

藤波家の南側は細長い縁側になっている。この家に暮らし始めてすぐにこの縁側を気に入って、暇さえあればここでのんびりと庭を眺めるのが日課になっていた。

庭先にある紫陽花の花は今が見ごろで、青紫のこんもりとした固まりがとても可愛らしい。
玄関近くに植えられたクチナシの木には純白の花が幾つも咲いていて、爽やかな風が甘い香りを運んでくる。他にもゼラニウムや撫子の花などが梅雨の庭を鮮やかに彩っていた。

「いいお天気。」

思わず口からこぼれる。
見上げた青い空には白い雲が幾つか浮いていて、昨日までの曇天が嘘のように澄んでいる。

(そう言えば、ずいぶん外に出てないなぁ……)

行き倒れていたところを怜に助けてもらってから二週間以上経つのに、美寧はこの家から一歩も出ていない。靴を履くのは庭に降りるときだけ。
熱が完全に下がって数日間は体がだるかったが、今はもう普通に動ける。
朝怜が言っていたように、合鍵は貰っているから出掛けるのも家にいるのも美寧の自由。

(お天気もいいし、お散歩に行ってみようかな……)

家のすぐ前が緑地公園で、そこを抜けると商店街があるという。

『気晴らしに散歩するにはちょうど良いところですよ』

怜の言葉を思い出し、美寧は縁側のクッションから腰を上げた。


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