耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
常連二人が帰った後、客足が途絶える。この隙に、とマスターがいつものように美寧にお昼の賄いを出してくれた。
カウンターの一番端に座ってマスターの作ったナポリタンを食べる。小食の美寧に合わせて麺は少なめだが、代わりに野菜やウィンナーがたっぷりだ。美寧はそれをフォークで綺麗に巻き付け口に入れた。
マスターの作ってくれる賄いはいつもとても美味しい。手早く出来るのに、一流レストランのような深い味わいがして、美寧は賄いを口にする度に感嘆の声をあげてしまうのだ。
いつもならこの賄いも、口にした途端「美味しい!」と笑顔になっていたであろう美寧は、何も言わずにもぐもぐと食べ進めている。そんな美寧をカウンターの中からマスターが心配そうに見つめていた。
美寧の賄いが半分ほどになった時、ラプワールの扉がカランカランとベルの音を立てて開いた。美寧は反射的に「いらっしゃいませ」と言いながら立ち上がってそちらを見た。
「あら、ちょうどいいところに来たかしら?」
「奥さん!」
入って来たのはマスターの奥さんだった。
べっ甲色の眼鏡をかけた彼女は、カウンターの中のマスターに手をひらりと振ると、そのまま美寧のところまで歩いて来て隣のスツールに腰を下ろした。
「美寧ちゃん、お疲れさま。ここ、いい?」
「もちろんです、奥さん。」
「ありがとう。―――あら、今日のお昼はナポリタンなのね。」
隣に腰を下ろしながら美寧の手元を見た奥さんは、カウンターの向こうのマスターに向かって言う。
「マスター、私も同じの頂戴。あと、食後にブレンドね。」
「了解。」
マスターが奥さんの前にお冷のグラスを置くと、彼女はそれをごくごくと飲んでから美寧の方に向き直った。