耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
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(あのあと、やっぱり逃げられたんだった……)
顔を上げた怜と目が合った瞬間、弾かれたように立ち上がった美寧は、そのまま脱兎のごとく自分の部屋へと駆けていってしまった。
(逃げていく子猫みたいで可愛かった)
ふわふわの長い髪を跳ねさせながら走っていく後ろ姿を思い出して、怜はくくっと笑いをかみ殺す。
自分から逃げていくその姿まで、そんなふうに愛しく想えてしまうのだから、救いようがない。
一か月前に拾った子猫は、どうしようもないほどに愛しい人になってしまった。
(三十過ぎて、十も年下のあんなちっこいのに落ちるとはな……)
「我ながらどうしようもないな」と一人ごちた怜は、もう一度楽しげに肩を揺らした。
逃げて行った彼女はあれから部屋に籠りっきりで、いつもなら一緒に食べる朝食にも出て来ず、結局怜が家を出る時になってやっと姿を現した。
目を合わせはしなかったけれど、怒っているわけではないようだった。「いってらっしゃい」と声を掛けてくれたのが何よりの証拠だろう。
けれど怜は考える。
もしかしたら、美寧はもうここには帰ってこないかもしれない。
美寧の本当の家がここではないことは分かっている。本人に直接聞いたことはないけれど、これまでの彼女の口調から、彼女が何らかの事情を抱えていることには気付いていた。
けれど彼女がどんな事情を抱えていようと、怜には関係ない。ただここにいる間だけでも、彼女が安らかに心穏やかに過ごしてくれたらいいと思う。そう思っていた、その時は。
怜は仕事からの帰り道の途中にあるラプワールに、敢えて顔を出さなかった。帰ってくるのも帰ってこないのも美寧の自由。
自分に出来るせめてものことは、彼女の好物を用意して待つことくらい。
(もし帰って来たらその時は……)
怜はしばらく瞳を閉じ、それから力を込めて瞼を持ち上げる。そこには何かを決意したような強い光が宿っていた。