耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
さっきまで作っていたものを冷蔵庫に仕舞うと、今度は中からアジを取り出した。帰り道に商店街の魚屋で買ってきたものだ。
いつものように夕飯の献立を頭の中で組み立てながら商店街を歩いていた時に、店頭に並べられているものが目についた。旬のアジはよく脂がのっていて、青光りしていてとても綺麗だった。
怜も自分で捌くことは出来たが、「三枚おろしにもできますよ」という店主の言葉に、「それなら」と、いつもより多めに購入したのだった。
あらかじめ三枚おろしにしてもらっているから、怜の手間は少ない。食べやすいサイズにに身を切り分けると軽く塩を振り置いておく。その間に人参、ピーマン、玉ねぎを細切りにし、油でさっと揚げる。続いてアジの水気を切って片栗粉をまぶすと、それも揚げた。
軽く油を切ったそれらを、あらかじめ用意しておいた南蛮酢に漬けたら、今夜のメインであるアジの南蛮漬けの出来上がりだ。
次に副菜に取り掛かる。
(今日はミネの好きなアボカドにしよう。)
美寧は、食は細いが好き嫌いはほとんどない。どんな料理を出しても「美味しい」と笑顔になる為作り甲斐はあるが、一方で特別に好きな物を探るのに同居当初密かに苦労した。
(初めは“食事”という言葉を聞くだけで嫌そうだったな。)
最初のころの美寧を思い出して、内心苦笑する。その苦笑は表情には乗らず、この場に誰かが居たら、無表情に坦々と料理をしているように映るだろう。
洗い物をしたり、食材を切ったりする怜の手は少しも止まることなく滑らかで、料理はあっという間に出来上がっていく。
(あとは…汁物か。今日は和食だから……)
美寧のアルバイトの日の夕飯は、和食が多い。
怜は和洋中、どれも偏らずに作ることが出来るのだが、美寧が昼の賄いで洋食を食べてくる確率が高いので、一日のバランスを考えると、夜は和食か中華などのメニューになることがほとんどだ。
食の細い美寧に出来るだけ栄養を採らせたい怜は、量よりも品数を増やして色々な食材を彼女が口にできるように気を配っている。
その努力の甲斐あってか、一緒に暮らし始めて一か月経った今、美寧はここに来た当初より幾分ふっくらとしたし、肌の色つやも良くなった。
怜が小鍋に水を入れ火に掛けた時、玄関の引き戸が音を立てた。