耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー


(おとうさまには最初から私は必要なかったのよ………)

見下ろした紫陽花がゆらゆらと揺れる。
雨に打たれる花弁を見下ろしながら、湧き上がる苦い感情に胸が苦しくなっていく。

日暮れ間近の公園には、雨が降っているせいか通りかかる人もまばらだ。
しかも美寧がいる場所は、植え込みや大きな木に囲まれ、見えづらくなっていた。


親子らしい触れ合いなんてなかった。
けれどいつか父の役に立ちたいと思っていた。
だから祖父と暮らした家を出るのは悲しかったけれど、父の家に戻ろうと決めたのだ。

だけど僅か一年。今度は別の人の家に嫁が(いか)されるという。
どこの誰とも知らない、いつ決まったのか美寧自身は知らない許嫁のもとに。

(てい)の良い厄介払いだ。

それでも、自分が嫁ぐことで父の仕事に有利に働くことがあるのかもしれない。
どうせ役に立たない、ずっといるかいないか分からなかった娘だ。結婚することで父の役に立てるならそれも良いかもしれない。
学友が口にしていた“恋”も知らない。想う相手もいない。
問題なんてどこにもない。

許嫁との顔合わせまで約半年。美寧はそう自分に言い聞かせ続けた。


許嫁との顔合わせが近付くにつれ、もともとなかった食欲は皆無と言っていいほどに減り、空腹のときも胃が痛むようになった。
食べると胸やけをするし、食べ過ぎると吐いてしまう。

そんなふうに過ごした数か月。そしてとうとう、許嫁との顔合わせが、明日に迫っていた。


< 295 / 353 >

この作品をシェア

pagetop