耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
(おいしい……)
南蛮漬けの味を口に入れた美寧は、心の中でそう呟く。
小さ目の一口大に揚げられた鯵は、脂が乗っているけれど臭みはまったく無い。甘みと酸味のバランスが絶妙で、出汁の香りが全体を優しくまとめている。今日みたいに暑さと労働で疲れた体にもするりと入っていく。
同じ皿に盛りつけられたアボカドは、美寧の好物だ。長芋の粘り気とアボカドのまったりした触感は喉越しもよく、わさびが良いアクセントになっていて、いくらでも食べられそうだ。
小さく盛られたご飯を口に入れ、もぐもぐと咀嚼しながら向かいをちらりとうかがうと、いつもと変わらず綺麗な所作で食事をする姿が目に入った。
(れいちゃんのご飯、いつもとおんなじ。どれもおいしい……。)
吸い物椀を手に取って口にする。可愛らしい花麩に、ほっこりと口元が緩む。吸い物に入っている丹生麺は、一人前の量のご飯を食べきることの出来ない美寧に少しでも炭水化物を、という怜の工夫なのだが、美寧それを知らない。
けれど、出された料理の全てに、怜の美寧への優しさが詰まっていることは最初から分かっている。
―――彼女がここに来た最初から。
(変わらない……れいちゃんのご飯も、れいちゃん自身も……)
きちんと背筋を伸ばして食事をする怜は、食べていてもとても美しい。
長い睫毛を伏せてテーブルの上に視線を落としている怜を、こっそりと観察する。
(なんにもなかったみたい……れいちゃんはふつう。私だけが一人で恥ずかしがって一人で慌てて……)
風呂から上がった美寧の髪をいつも通りに乾かした時も、夕飯を出した時も。怜はいつも通りに落ち着いた表情のままだった。
もっと言うなら、美寧が帰宅した時、いや、朝出掛ける時からまったく変わらなかった。
ゆうべのことは美寧の夢だったのかもしれない。