耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
「私……お父さまの家から逃げ出したの……誰にも何も言わないで……」
怜の言葉にぽろりと涙をこぼしたのを最後に、泣くのを止めた美寧は、ぽつりぽつりと自分のことを語り始めた。怜は静かに美寧の言葉に耳を傾ける。
小さな頃に母親を亡くした美寧は、ずっと祖父の家で暮らしていた。けれどその祖父が亡くなったのを機に、生家である父の家に戻る。
本来なら本当の家はそこのはずなのに、美寧は少しもそこを自分の家だと思えなかった。
父はほとんど家にいない。たまに顔を合わせても、美寧と視線を合わせることはほとんどない。大好きな兄も今は海外で、美寧のことに関心を払う者はない。あったとしても、己の職務を全うするための義務的なものばかり。
冷たい檻のような生家で、美寧は祖父を亡くした悲しみと寂しさ、孤独を深めていった。
それでもなんとか自分にできることを探していた美寧に、初めて与えられた仕事。それは『許嫁との結婚』だという。
いつの間に決められていたのかも分からない、顔も知らない許嫁との顔合わせの前日。反射的に家を飛び出した美寧は、行く当てもなくさ迷った場所で倒れ、そして怜に拾われた―――
「お父さまには、私なんて最初からいないのと一緒だった……せめて最後にお父さまの望む相手に嫁げば、少しはお役に立てたかもしれないけれど………」
美寧は少し黙ってから、「でもそれも無理だった……」と苦しげに呟いた。