耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
「その後いらっしゃった奥さんに聞いてみたの。『ミネットって猫につける名前なんですか?』って」
『フランスではオーソドックスな猫の名前らしいわよ。日本で言うと“ミーちゃん”みたいな感じかしら。美寧ちゃんの名前と似ているから、聞き間違えても仕方ないわね』
奥さんがそう言って笑った後に、『ああ、でも……』と付け加えた言葉は意味深長だった。
ラプワールのマスターの奥さんは喫茶店経営には関わっておらず、時々ふらりとラプワールに顔を出す。
マスターの淹れたコーヒーを飲んだりご飯を食べたりしながら、美寧や常連客とお喋りをすると帰っていく。本人曰く『息抜き』だそうだ。
奥さんはとにかく色々なことを知っていて、頭の中に辞典や図鑑が入っているのではないかと思うくらい博識だ。その知識量の多さから、お客さんとの会話に事欠かない。ひそかに彼女と話をしたくて来る客も多いという。
前に『夫婦二人とも自営業だから』とは聞いたことがあるから、彼女自身も何か仕事を持っているようだ。詳細は聞いていない。
『ミネット』という名前を聞いた時、美寧の頭に一番に浮かんだのは怜が良く口にする言葉。
『ma minette』
自分の名前とフランスの猫の名前が似ているからそう言うのだろうか。
疑問に思ったけれど、何となくラプワールでその言葉を口にするのは躊躇われた。
その言葉を言う時の怜の雰囲気が、普段と違う”特別なもの”に感じて、なんとなく美寧だけの秘密にしておきたい気持ちになる。
結局奥さんに『ma minette』のことは訊かずに、帰ったら自分で調べてみようと思ったのだった。
そのことを思い出した美寧が再びスマホ画面に指を置いた時、手に持っていたスマホがスーと抜き取られた。
「あっ!」