耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
「た、……食べられないもん」

「ふふっ、そうですか?頬は林檎みたいに美味しそうですけど」

くすくすと笑う怜に、美寧は「もうっ!」と頬を膨らませた。
それを見た怜がまた「くくくっ」と笑いをかみ殺す。

「もうっ!からかわないで、れいちゃん!」

美寧が恨めしげな目で見上げていると、ゆるんだ口元に手を当て目元もゆるませた怜が「すみません」と謝る。

「もう笑いません………どうしたら機嫌を直してくれますか?」

「………ム…イス」

美寧は口の中で小さく呟いた。
はっきりと聞き取れなかった怜が、「ん?」と首を傾げる。洗い上がりの艶やかな髪がサラリと揺れる。

少しだけ(かし)げた顔。涼やかな瞳。
真剣な瞳にまっすぐに見つめられ、美寧は再び頬を赤らめながらが上目遣いに怜を見て言った。

「オムライス―――明日はオムライスがいい」

「明日《《も》》、ですか?」

「うん………ダメ?」

「ダメではありませんが……今日食べたばかりで飽きませんか?」

「飽きない。れいちゃんのオムライスは毎日食べたいくらいおいしいもん」

「それは………良かった」

「それにね、今日のはデミグラスソースだったでしょ?だから明日はケチャップのやつがいい」

「デミグラスはイマイチでしたか?」

「ううん、そんなことない!すごく美味しかったよ……でも………」

「でも?」

「あのね、あれ、……書いて欲しいの」

「あれ、とは?」

「さっきの《《あれ》》……」

「さっきの……ああ。『ma minette』ですか?」

「う、うん……」

美寧の頬が更に赤く染まる。

「了解です―――ma minette、俺の恋人」


美寧の頭に奥さんが言った言葉が過った。


『ああ、でも――― “猫のこと”、とは限らないのよね』


(それって、もしかして―――)

何か閃きそうになった瞬間―――

美寧の唇にもう一度怜の唇が重なった。









【了】
< 351 / 353 >

この作品をシェア

pagetop