旦那様の独占欲に火をつけてしまいました~私、契約妻だったはずですが!~
「たまたま出勤時間が同じで、一緒に来ただけだから」

私たちバイヤーは本社に出勤することなく、直接営業先や取引先、店舗に赴くことがある。

一日会社に顔を出さないこともしばしば。だから商品部のオフィスに全員が揃うことは滅多にない。
今日は月に一度の会議があったから、彼の運転する車で出社したまでだ。

それなのに玲子の顔はニヤニヤしたまま。本日の日替わりランチのコロッケを食べながら言う。

「そういうのを仲が良いって言うの。……うまくいっているようでなによりだよ。なに? もうどうしようもないほど彼のことを好きになっちゃった?」

私の反応を窺いながら聞いてきた玲子に、タジタジになる。

ちょっと今、私たちがいる場所を忘れていない? ここは本社の社員が多く利用している社員食堂だということを。

「ここでそんな話をできるわけないでしょ?」

はぐらかして味噌汁を啜る。

「そうか、好きになっちゃったか。……それじゃもう一線を越えちゃった?」

最後にボソッと聞かれた内容に、味噌汁を吹き出しそうになる。

「ゴホッ……! そんなわけないでしょ!?」
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