旦那様の独占欲に火をつけてしまいました~私、契約妻だったはずですが!~
「なんか違うんですよね、織田さんと姫野さんって。……あ、今は門脇さんでしたっけ?」

「いや、会社ではまだしばらくは旧姓でお願いしますと言っていたぞ」

耳に届いた織田先輩と自分の名前にドキッとなる。

事務所前で足を止め、だめだとわかりつつも気になって耳を澄ませた。

「仕方ないとはいえ、どうしても比べてしまうよな。織田さんは本当に細かなところまで配慮してくれたから」

「些細なことだけど、それが嬉しいというか、求める以上に尽力してもらえたら、こっちも頑張ろうって思えますよね」

「姫野さんに織田さんと同じことを求めるのは、可哀想だろ。あの人、まだ仕事を覚えることで精いっぱいだろうし」

「そうですね」

やっぱりわかっちゃうよね、仕事に対して余裕ないってこと。

回れ右をして静かに店を後にした。

自分でもわかっている。私はまだまだだし、織田先輩の足元にも及ばないってことを。

だからこそ日々頑張っている。……でもいくら頑張ったって、実力が伴わなければ意味がないこと。それではひとりよがりになってしまうもの。
< 125 / 262 >

この作品をシェア

pagetop