旦那様の独占欲に火をつけてしまいました~私、契約妻だったはずですが!~
深々と頭を下げる店長は、私より二十歳以上年上だ。人生の先輩に対して私が注意をするなんてこと、最初はできないと思っていたけれど……。

バイヤーとしての仕事だと割り切る。お客様に迷惑をかけることになるのだから。

「それでは私はこれで」

店を出ると、ますます雨風が強さを増していた。このまま直帰したいところだけど、今日中に発注をかけなくてはいけない。

今度は傘を差して駅に向かうものの、風が強くて意味がない。さらに濡れながら電車に乗り込んだ。

車内には私と同じようにずぶ濡れの人が多くいる。なるべく人と触れないよう端に寄った。

まずいな、急に寒くなってきた。

そりゃいつまでも濡れている服を着ていたら、こうなるよね。
会社のロッカーに着替えなんて、あったかな? 上着ぐらいはあった気がするんだけど……。

電車を降りて駅から会社に向かう途中でも、また濡れてしまった。

もう、最悪だ。……でもどうにか特注分用意ができてよかった。

時刻は十九時半を回っている。社内に残っている社員はほとんどいないようで、廊下はシンとしていた。

私も早く発注をかけて帰ろう。
< 137 / 262 >

この作品をシェア

pagetop