旦那様の独占欲に火をつけてしまいました~私、契約妻だったはずですが!~
「好きな人のそばにいることだけが、幸せとは限りません。現に私は彼と離れてやっと幸せになれましたから」

そう話す彼女の左手薬指には、私と同じく結婚指輪が光り輝いていた。

「私に言われても困るかもしれませんが……。あなたの幸せを陰ながら願っています」

伝票を手にした彼女に、慌てて立ち上がった。

「私が……!」

「いいえ、お時間を作っていただいたのはこちらです。なのでここは私が。……失礼します」

そのまま彼女は支払いを済ませ、カフェから出て行った。そのまま力なく座り、彼女が出ていったドアを見つめてしまう。

「好きな人のそばにいることだけが、幸せとは限らない……か」

店内の喧騒にかき消されていく自分の声。

私は好きな人のそばにいられることが、幸せだと思っていた。だってそれ以上の幸せなんてある?

だけど彼女は違うと言う。それに俊也さんに忘れられない女性がいるとも。

重い足取りで帰宅し、向かった先は彼の書斎。

仕事をしている彼を呼びに入ったことはあるけれど、隅々まで見たことはない。
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