旦那様の独占欲に火をつけてしまいました~私、契約妻だったはずですが!~
間違いない、きっとこの人が俊也さんにとって、生涯たったひとりの愛する女性だ。

彼女の言っていたことは、本当だったんだ。俊也さんにはずっと忘れられない人がいたんだ。

ふと写真の裏を見ると、文字が書かれていた。

【姫乃と初めての水族館】

「え……姫乃?」

もしかして彼が寝言で言っていた『ひめの』って、この人のこと……?

きっとそうだよね。だって私、一度も俊也さんから『姫野』って呼ばれたことないもの。

私の苗字が愛した女性と同じ名前だったから、呼びたくなかったの?

だったらあんまりだ。……私だけ下の名前で呼ばれ、少しだけ浮かれていた自分がバカみたい。

姫乃さんとの指輪や写真を大切にとっておくほど好きなのに、どうして私と結婚したの? なぜ姫乃さんと結婚しなかったの?

写真に写る笑顔のふたりを見つめたまま、涙が溢れそうになった時。

「なにやってるんだ」

「……っ!?」

静かな書斎に響いた彼の声にびっくりして、手にしていた写真を落としてしまった。
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