旦那様の独占欲に火をつけてしまいました~私、契約妻だったはずですが!~
「俊也さんには、愛する女性がいると聞きました。……俊也さんは私に好きになることはできても、愛することはできないと言いました。でも好きになることもできないんじゃないですか?」

心の中に忘れられない人がいるのに、他の人を好きになることなんて私にはできないもの。

「ちゃんと話してください。……私には聞く権利があるはずです」

法律上、私はあなたの妻なのだから。

だけど彼に触れようとした瞬間、大きくその手は払い除けられた。

「勝手に俺の心に入ってこないでくれ」

「……っ」

完全なる拒絶に、涙が零れ落ちた。彼は私を見ることなく俯いたまま。

話してもくれないの? 彼女のことを。俊也さんにとって私は、いったいなんだったんだろう。

やっぱりただ単に、都合のいい結婚相手に過ぎなかった? だったらなぜ、あんなに優しくしてくれたの? 好きだと言ってくれたの?

これ以上俊也さんと一緒にいることに耐えられなくなり、机の上に置いてあったバッグを手にし、私は家を飛び出した。

背後から彼が追ってくる気配はない。それが答えなんだ。
< 169 / 262 >

この作品をシェア

pagetop