旦那様の独占欲に火をつけてしまいました~私、契約妻だったはずですが!~
俊也さんに惹かれ始めてから、彼の言葉が引っかかり好きになることに躊躇していた。

でも好きと気づいたら想いは溢れて止まらず、こんなにも悲しくて辛くなるほど好きになっている。

俊也さんに近づきたいのに近づけない。妻として一番近くにいるはずなのに、彼が遠い。

溢れる涙はずっと止まってくれない。泣きながら途方もなく走り、気づけば街中に来ていた。

道行く人は何事かと見ている。だけどそんな視線を気にする余裕など、今の私にはない。

ひどいです、俊也さん。愛することも好きになることもできないのに、どうして私を好きにさせたの?

最初から優しくしてほしくなかった。ただの割り切った契約結婚だったら、どれほどよかったか。

次第に息は上がり、足が止まる。それでも一向に涙を止める術がない。

歩道の端に寄り、どれくらいの時間声を押し殺して泣いていただろうか。

「なにやってるんだ、こんなところで」

焦った声と共に抱きしめられた身体。呼吸が乱れていて、胸に響く心臓の鼓動は速く脈打っている。

ゆっくりと視線を上げると、苦しそうに私を見つめるお兄ちゃんの顔が視界いっぱいに広がった。
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