旦那様の独占欲に火をつけてしまいました~私、契約妻だったはずですが!~
織田先輩は明日から、育児休暇に入る。今日は最後の出勤日。

「お腹大きいんですから、無理しないでください。……本当は挨拶だって電話で済ましても、いいじゃないですか」

都内だけだけど、頻繁に訪れていた店舗に織田先輩は律儀に挨拶に回っていた。

だけどそれが織田先輩らしいと思う。責任感が強くて真面目で、笑顔が素敵で。彼女を慕う人は多い。

その証拠に行く先々で「おめでとう」と声を掛けられ、プレゼントまで渡されていたから。

貰うたびに私は遠慮する織田先輩から奪い取り、両手は紙袋でいっぱいだ。

「ごめんね、持たせちゃって。……それに付き合わせてごめんなさい。少しでも姫野さんが仕事しやすい環境にしてから、育休に入りたくて」

申し訳なさそうに眉尻を下げる彼女に、同性ながら胸がキュンとなる。

織田先輩は各店舗の店長に私のことをたくさん話してくれた。『努力家で、私以上に働き者です』とか、『困ったことがあったら、彼女に頼ってください』とか……。

隣で聞いていて、恥ずかしくなるほど褒めちぎった。

でもそれは、織田先輩の言うようにすべて私のため。赤ちゃんが生まれるんだもの。おめでたいことなのに、織田先輩は自分が育児休暇に入ることを申し訳なく思っている。
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