旦那サマとは打算結婚のはずでしたが。
気持ちを楽にして飛び立つことは難しい。
だって、私に植物のことを教えてくれて、庭づくりの楽しさを教えてくれたのは、他ならぬ祖母本人だったから___。


「……もう無理だよ。私は結婚もしたし、今になって自分の夢を追って海外へ行こうなんて、出来る筈がない」


それにやっと夫婦らしく二人で居ることの楽しさを知ったばかり。
なのに、その時期を堪能もしないうちに一人で外国へ行き、庭づくりの勉強をするなんてあり得ない。

そんな事をしなくても国内で庭を見れたらそれで十分なんだ。
まだ行ってない庭もあるし、憧れだった庭へ行けなくても、そういうのはニュースの中やテレビ番組で幾らでも見られる。

実際の空気に触れたり、世界に浸らなくても別にいい。
今は焦ってそれを叶えなくても構わないんだ…と諦めるように息を吐いた。


(もうこれ以上話すのはやめよう)


虚しくなると思い、きゅっと奥歯を噛む。
だけど、そんな私のすることをじっと彼は見つめてたみたい。



「未彩」


厳しい感じの声を出し、ぎゅっと肩を握る相手。
その力強さに驚き、ビクッとしながら目線を向けた。


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