ビタースウィートメモリー
会食を終えてホテルに戻った時には23時を過ぎていた。
朝の致命的なミスを奇跡的にカバーし、無事に仕事を終え、お偉いさんに囲まれた食事会まで終わらせたのだ。
HPがガリガリと削られ、そろそろレッドゾーンに突入しそうである。
バスタブにお湯をためて、アメニティのバスソルトをたっぷり降り注いで身を沈めると、一日の疲れがジワジワとなくなっていった。
明日のスケジュールはデパートで行われる夏の新作を揃えたイベントの視察のみで、夕方には新幹線に乗れるだろう。
20時前には確実に帰宅出来る。
特に見たい番組があるわけではないがテレビをつけて、悠莉はバスタオル一枚でベッドに寝転がった。
ぼんやりとニュースを聞きながら、昨日のことを思い出す。
大地は病院に付き添ったのだろう。
結果がどうだったか知りたい気持ちが半分、知ったところでもう彼とは仲良く出来ないという気持ちが半分。
傍から見たら、女性を妊娠させてその責任を取るという筋書きも、やらかしたのが大地ならあり得ると納得してしまうだろう。
そんな男の何に惹かれたのか自分でもわかっていない悠莉だが、仕事から解放されると彼のことばかり考えていた。
この気持ちは成就しないだろうという諦め、久しぶりに芽生えた恋心が散った悲しみ、長い付き合いだった友人を失った喪失感が、代わる代わる胸を巣食う。
「吉田さんを好きになってれば、苦しくなかったのかな……」
特に浮いた話しもなく、真っ直ぐに悠莉を愛する男性。
そんな人を好きになっていれば、こんな風に悩んだり、大地を失わなかったかもしれない。
十代の時は新鮮で、楽しくて仕方なかったこの制御出来ない感情が、大人になった今はただただ鬱陶しい。
「ほんと、面倒くさい」
力の無いその声は、無人の部屋に小さく響いた。