ビタースウィートメモリー



確かに社会的にアウトな行為ではない。

しかし、彼女でもない女性に対していささかハードルが高いのではないだろうか。


「こことか、絶対似合うと思うんですよ!」


吉田が悠莉を引っ張ってきたのは、OLに人気のプチプラブランドだった。

ベーシックカラーの落ち着いたデザインのものが多いが、トレンドもしっかり押さえているため、大人しいが地味ではないブランドである。

悠莉が普段着る系統とも比較的近く、ほっとして店内に入ると、吉田は早速何点か選んだらしい。


「最初の試着にはこれを」


鼻息も荒く手渡されたのは、装飾が一切ないシンプルな、ネイビーのとろみ素材のAラインのワンピースだった。

高校を卒業してからスカートは一切履いていない悠莉は、そのワンピースを片手に凍りついた。


「ワンピース、ですか」

「青木さんが絶対スカートやワンピースを着ないのは知っています。だからこそ見てみたくて。お願いします!」


いっそ清々しいほど下心丸出しの吉田に、悠莉は力なく笑った。

別にいやらしいことを要求している訳ではないのだ。

ただワンピースを着るだけで喜んでもらえるなら、安いものだろう。

しかし、このデザインだけはダメだ。


「百歩譲ってワンピースを着るとして……他のデザインは無いんですか?」

「とりあえずこれを!」


どうしてもAラインワンピースが良いらしい。

試着室に籠って悠莉は着替えた。

チャックを上げると、予想通りの仕上がりである。


「吉田さん、やっぱり他のデザインのにしてください」


シャッと軽い音を立てて開いたカーテンから、サイズが合わずに服に着られている悠莉が出てきた。

肩幅が合わずパツパツで、そして本来ならすっきりしたシルエットになるはずのAラインは、胸が生地を持ち上げているため、丈の長さが前後で違う。


「わお。これはこれで眼福」

「きついんですけど」

「肩と胸が?」

「ええ。見ての通り」

「差し支えなければ教えてください。何カップですか?」

「Eですが何か」


もう明日死んでも良いと天を仰ぐ吉田は、まるで童貞をこじらせた大人である。

これくらいで幸せに浸れるなんてお手軽な男だな、というのが今の悠莉の感想だ。

次に吉田が持ってきたのはローズレッドのミモレ丈のワンピースと、ネイビーのシャツワンピースである。


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