ビタースウィートメモリー
月曜日の朝、いつもなら通勤、通学ラッシュで電車の人口密度がおかしいことになっているが、今日に限ってそこそこ空いている。
これ幸いと空いた席に座り、悠莉は昨日から放置していたSNSに目を通していた。
朝からネットサーフィンなんて久しぶりである。
それにしても、今日はなんだかインスタとLINEの通知が多い。
不思議に思いながら美咲から来ていたLINEを開くと、やたらと疑問符のついた本文よりも、ある写真が目についた。
そこに映っていたのは背の高い男女だ。
黒いショルダーバッグ、ローズレッドのワンピース、背景はお台場海浜公園。
間違いなく、昨日の自分である。
包み込むように抱きしめる吉田の顔は映っていないが、彼は珍しい髪色で類稀な高身長だ。
後ろ姿だけでも十分本人とわかる。
誰が、なんのために写真を撮り、流出したのか。
眉根を寄せ、美咲の送ってきたメッセージを見ると、インスタに載せられていたことがわかった。
すぐにインスタを開くと、そこはすでに収集がつかないことになっていた。
悠莉がインスタでフォローしているのは、会社の人間だけだ。
通知が何度も来るということは、悠莉がフォローしている誰かの投稿が炎上しているからに他ならない。
画面をスクロールしてすぐに、問題の写真を見つける。
アカウント名は、まりりんというキラキラした名前だった。
悠莉が抱きしめられている写真の下には、『私のことは振ったくせに』と書いてある。
コメント欄では、何人かが無遠慮に囃し立てていた。
〝これ、営業一課の青木さん?付き合ってるの?〟
〝相手誰?〟
〝広報の吉田さんだよね。まりりん振られたのか〟
その一言から下は、もう見るのも面倒くさくなるほど長いやり取りだった。
どうやら投稿した女性は、吉田のことが好きだったらしい。
だが振られたため、その腹いせにこの写真を載せたようだ。
この写真を撮ったということは、昨日近くに彼女がいたということだ。
たまたま出先で二人を見つけたのか、それとも彼女は吉田のストーカーだったのか、真相はわからない。
しかし、厄介なことになってしまった。
軽々しく人の写真をSNSに上げるまりりんとやらにも腹は立つが、それにコメントして盛り上がるやつらもやつらだ。