神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
 その声に振り返ったウィルタールが青い瞳をまん丸にして、殊更(ことさら)焦ったように声の主の秀麗な顔を見たのである。
 その美麗で妖艶な異国の若い女性は、いつの間にかそこに立ち、紅色の唇でなにやら思惑ありげに微笑している。 
 リタ・メタリカ宮廷付き侍女のドレスを纏(まと)い、見事な赤毛の長い髪を後ろで結ったその優美な姿。
 美麗な顔がどこか可笑しそうな表情で彩られている。
 それはリタ・メタリカ国王の銘によって赴いたレッド・ポセイドンの地で出会った、あの異国の女剣士に相違ない。
「エストラルダの密偵が・・・・そのように堂々と・・・・」
 スターレットは、ますます深いため息をついて、その首を横に振ると、どこか呆れたような視線で、海を隔てた隣国エストラルダ帝国の剣士ラレンシェイ・ラージェを見た。
 思わず冷や汗を流すウィルタールを押しのけるようにして、リタ・メタリカの雅な大魔法使いの前に立つと、彼女は、その茶色の瞳を細め平然と微笑むのである。
「私の身の上など、とっくの昔におぬしにはバレてしまっているではないか?リタ・メタリカの大魔法使い殿」
「私は国に帰れと言ったはずだ?これからこのリタ・メタリカに何が起こるか・・・【あやつ】と対峙したそなたなら、わからんでもあるまい?」
 そんな彼の言葉に、不意に、異国の気高き女剣士ラレンシェイの美麗な顔が鋭く歪んだ。
「魔物など恐れるに足りぬ。
それに、任務を終えぬまま、いけしゃあしゃあと国に帰れる訳もあるまい?私はアストラだ、アストラの誇りにかけても任務は最期まで遂行する。
それが嫌なら、何故あの時私を殺さなかった?殺さぬのなら、何故私を床(とこ)で組み伏せなかった?」
「・・・・・・・・。」
 妖艶な唇から出た静かだが強い彼女の言葉に、流石の大魔法使いスターレットも返す言葉が見つからない。
 彼女と出会ったのは、400年前にリタ・メタリカの王家に反旗を翻した魔法使いラグナ・ゼラキエル・アーシェの墓がある、レッド・ポセイドンという港街でのことである。
 大国リタ・メタリカの南西に位置し、竜の水甕(ドラグナ・ル・ベリング)と呼ばれる大海洋を望む小さな町だ。
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